待合室にて

pakira_s2011-08-02

今日は休暇をとって減感作療法へ。

待合室で「宇宙飛行士ピルクス」を読みながら待っていると、おじいさんと元気のよい10歳くらいの男の子がやってくる。

お爺さんといっても、65歳くらいだろうか。グリーンの袖無しのTシャツに灰色の半ズボン、茶色のサンダルという出で立ち。髪の毛はやや茶色っぽく、短く刈り込んだ感じだが、少々ちりちりしているような感じだ。男の子は、普通の英文字入りの半袖Tシャツに半ズボン。

二人は、今回がこの医院で初めての受診らしく、現在の病状やアレルギー、既往症などを書く用紙をもらっている。
その際、ふと聞くともなく、お爺さんが「身体障害者なので」と言っているのを耳にする。「てんかん」といった言葉も聞こえたような気がするが、それはてんかんという病気を有しているのか、症状の説明で例として使っているのか分からない感じだった。
お爺さんの様子を見ると、確かに体をそんなにスムーズに動かしているわけでもなさそうだが、老人でもあるし、目立った悪いところは見られない。
お爺さんは、待合室のソファに腰を掛けると、用紙に記入し始めた。

その間、男の子は、待合室の「こどもコーナー」に行ったりして元気に動き回っている。
子供コーナーは、そこで坐ったりもしながら遊べるようになっているスペースで、アンパンマンやディズニーの映像が流れているディスプレイも据えられている。その隅の壁には、おそらくもともとは花瓶や飾り物などをおくためであったろうスペースが凹んで設けられている。かなり大きなスペースで、子供なら乗ることもできるくらいだ。
男の子は、そのスペースに乗ったりもしているが、少々危ない感じだし、降りる時に他の小さなお子さんにぶつかる可能性がある。

お爺さんは、振り向いて男の子の様子を見ると、男の子に
「おりとき」
と言い、また用紙の記入に戻る。
男の子は
「ありがとうございます」
と言って、まだその棚のような場所にいたい感じではあったが、ゆっくりと降りてくる。
そして、
「お爺さん」
などと明るいはきはきした声で呼びかけながら、少し走るようにして、お爺さんのところに戻ってくる。

その後も、男の子は元気よく動き回り、また先の棚のようなところに乗ったりして、また降りるように怒られたりしている。
しばらくして、診察の順番が来て、二人は診察室に入っていった。

私はまた読書を続けていたが、やがて二人の診察が終わり、出てきたようだった。
また男の子のはきはきした声が聞こえる。見るとお爺さんはソファに座っており、男の子はまた子供コーナーの方に行ったりしている。
そして今度は、子供コーナーと一般の待合コーナーを仕切っている、大人の腰ほどの高さの仕切りの上に乗ったりして、
「降りた方がいい?」
などとお爺さんに元気に呼びかけたりしている。
そして、またお爺さんから怒られ、
「お爺さん、ありがとう」
と返事をしている。

その様子で、私は漸く違和感を覚える。
この男の子は、止まらない。
ずっと動き回っている。
確かに、注意されると、その行為を止めるときもあるが、やめない(というかやめられずにいるような)時もある。

お爺さんは、もう一度呼ばれて
「お薬の説明をしますのでどうぞ」
と看護師さんに言われる。
お爺さんは立ち上がると、診察室に入っていく。すると、男の子も、勢いよく診察室に行こうとやってくる。
看護師さんは
「きみはここで待っといていいよ」
と言うが、耳を貸さずそのまま診察室に駆け込んでいった。
私は、少しはらはらした(何か男の子が聞くと悲しいような話がなかったろうか)。
やがて二人は、診察室から出、お金を払い、薬の購入方法などの話を聞いて帰って行く。

あの二人のいる家庭では、男の子に注意されたら
「ありがとうございます」
と返事をするように教えているのだろう。
それは、男の子を随分生き易くしてくれる言葉なのかも知れない。
男の子の表情は明るい。
確かにお爺さんの機嫌を伺うようなところもあったけれど、伏し目がちに暗い表情で伺うのではなく、少し甘えたような、相手を好きである、という雰囲気で正面からその気持ちを確かめようとしている感じだ。
この男の子が学校ではどのように過ごしているか分からない。
しかし、以前、中井久夫さんも書かれているように、さまざまな特質を持つ人が、本質的によい顔で過ごすことができることが大切と思う。
私は、その家庭や学校、周囲の人々に感謝をしたのだった。