手を振る

朝、地下鉄の出口から外に出る。
広々とした空間に出て、道路に目をやると、ゆっくりと大型バスが坂を登ってくる。
大型バスには、子供達が乗っていて、一人が外に向かって熱心に手を振っている。
私は周囲を見渡してみたが、特に彼が目を見交わしているような人の存在は見つからない。
それどころか、誰もが俯くようにして歩いており、そのバスに目をやる人もいない。
仕方がないので、私は手を上げて、手を振っている少年に挨拶を返した。


すると、その少年が手をより強く振り出したのに加え、少年の周囲の子供達も手を私に向かって振り始めた。
ますます仕方がないので、私も手を上げるだけではなく、少し振るようにし、彼らに笑顔を向ける。
そのバスは、手を振る子供達を乗せたまま通り過ぎていった。
同じ型の、同じように子供達が乗っているバスがその後に続いていたが、手を振る子供はいないのだった。