おたくの品格

おたく☆まっしぐらを終了(2011年7月31日)。

田中ロミオはやはり強烈な倫理感を持っている。
倫理感を持っているから悪いことをしない、というのではないが、本質的な倫理感があれば物事の判断を本質的には誤らない。これは、即ち人間を見ると言うことであり、雰囲気に流されることやレッテル貼りや集団になって特定の行動をとったりすることとは無縁だ、ということだ。

おたくまっしぐらで田中ロミオが目指したのは、そうした自立した人間への賛歌だと思う。
しかも、自立した人間の代表として、アルバイトをしながら徹底的に消費に徹する「おたく」という存在を取り上げている。
あるコメントにもあったが、主人公が最後まで「立派な」社会人とならず、「おたく」のままでおり、社会的な成功にもほど遠い状態で終わることに違和感のある人もいるだろう。と言うか、普通の人ならそうだろうと思う。また、実際には、このようなタイプの人がこのようなアウトプットを拒否する完全な消費型の「おたく」のみに止まる、ということはないだろう。一部のシナリオにあるように、何らかの形で自らの知見を形にしたり、他の者の開発や発表を助けたりすることにはなるのではないかと思う。
それでも、ここでは徹底して「おたく」で終わっているところがよいと思う。

やや一般世間から離れた「おたく」だからこそ、強烈な自己認識(自分は変わっているのであり、他人からそれを責められても動揺しないし、責める他人を糾弾することもない。しかし、そのような自由は守るために戦う)を持ち、人間性への理解と徹底的な倫理感(それこそ宗教の求道者、或いはやや実際的なところでは実践倫理などやっている人が守っているような生活習慣をしっかりと実践しているようなもの)があるべきだと思う。
以前「おたく道」というコラムで、コミケでアルバイトをしていた女の子が「おたく、きもい」と書いたことに立腹して攻撃し、会社や女の子に謝罪させていた参加者や便乗者の噂を聞いたことがあるが、こういう自らについての認識がない者が困る。
おたくは、正に、健全な女の子から見たらキモイ存在であることから始まるのであり、それがいやならおたくを止めればいい。私も当時は毎週秋葉原に通っていたわけであり、キモイと言われれば誇らしいくらいのものであった(キッパリ)。
むしろ、そのような自分を責めるような女の子が困っていたらなるべく目立たないように助け、気づかれように去っていく、というのがおたくの在り方のはずだ。どうも最近はこのようなおたく道を弁えないエセおたくが出没しており、これこそがおたく文化の危機とも言えるのではないか。

しかも、やったら結婚する、という徹底的な意志(尤も10万14歳ともやってしまうところは源氏物語以来の日本の伝統に則っている為欧米諸国からの攻撃を受けそうだ。)。ヒロインの女性の皆さんも、全員、結婚(する人)まで処女。
実に素晴らしい。
18禁なので、そのようなシーンもあるわけだが(私は基本的に飛ばしているが(本当です。))、実は丹念に描かれており「大切な人とするそのような行為は素晴らしいものであり大事にするべきものである」感が充ち満ちているものであることはよく知っている(でも、飛ばしているが。)。

口は悪く、品もなく、一種レッテル貼りに見える表現や差別的な表現その他があるが、しかしそれらと立場を同じくしているのではない。そのような表現に対する過剰でステロタイプな反応を笑っているような気がする。

この物語の主人公はやたらもてるわけで、自分から好きになって相手の気を引くために行動するということはない。
しかし、相手の行動には反応するし、相手が自分のことを好きになっていよいよ告白ということになったら、相手ではなく自分から告白ないし告白のような行動をとる。
勿論、相手のことは気に入っているし、実際に好きなっているわけだから、本心からの行動ではあるが、この辺もおたくらしい。正に、おたく道を地でいっている。
そもそも、誰でも自分の道を追及している者はもてるのであって(少なくとも一人には)、この主人公が特殊なわけではない。

面白いのは、上野久里というキャラクターで、いわば流行に流され、自分というものがなく、そのくせ自我が肥大して間違った万能感を持っているというありがちな存在。これが、ネットに絡め取られてしまうのも分かりやすい。ややこの部分は描き込みが軽いので、ステロタイプ風になっており、この点では強いメッセージを発することができなかったように思う。実は、この点でこの作品は大感動作品になるべきものであったのかも知れない。
この作品は、本当によいのだが、もっとよくなったであろうことが随所で伺われるので多くの人が残念に思っているのだろう。
それでも、2ちゃんねるのスレを見ていると「銀時計などつぶれてしまえばよい」などという書き込みがある。正にエセおたくだ。この作品をやってみれば製作に携わった人たちは情熱を持って一所懸命やっていることがすぐ分かる。今回はさまざまな要因のためにこうした結果になってしまったが、それでも価格分の価値は十分あると思う。「つぶれろ」などという書き込みは、実は煽りであろう。こうした書き込みについての判断もできるようになりたいものだ。

おたく道
http://d.hatena.ne.jp/pakira_s/20060821