センセイの鞄

昨日、バーの暖炉脇の本棚から不図取り上げて読んだ本。
気付けば、一気に読んでしまった。38歳の女性とおそらく70歳を超えるセンセイのお話。

なんとなく「すべて真夜中の恋人たち」と似ているな、と思った。
同じ作家の方かと思ったくらい(無知ですみません。)ですが、そちらは川上未映子さんですね。
弘美さんは1958年生まれ、未映子さんは1976年生まれですから、ある意味親子くらい離れている。

作品としては、もちろんセンセイの鞄が先で、ベストセラーになり、谷崎潤一郎賞を受賞し、映画化もされたと聞いて驚く。
つつましいお話のように思えたので。
センセイ、という存在はすべて夢でした、という夢落ちでもいいかな、と思ったことでした。


歯を食いしばって抱こうとする手を止める。凭れてくる重さを暫しは支えたとしてもゆっくり押し返す。
そのようなことがあるべき姿と思っている人々からすると、「センセイの鞄」など噴飯物だ。
もしこのようなことがあるとするなら、豆腐を食いながら酒など飲んでいる人物とではなく、世界を駆け回り、或いは世の神秘の解明や発見を追及してやまない人物が相手であるべきであり、また女性も自分の分野で天翔け、その意味でのパートナーであるような関係においてだろう。
もし川上弘美さんが年金生活者への慰めというかそうした人々にアピールしようとして書いたのなら、とても戦略的で結構なことだとは思う。これで励まされ、いい気持ちになっている人もそれなりにいるようだ。Amazonの書評など読んでいるとそれを感じる。謂わば高齢者福祉の一環としても意味のある小説と言える。
と私としては書いておくべきだと思う。