敬礼

あるおまわりさんから聞いた話。
駐在所で勤務していたとき、毎朝通る、小学校5,6年くらいの2人の男の子がいた。
二人は兄弟で、筋ジストロフィーに罹っている。
二人はだんだん体が動かなくなってきている。
お兄さんの方は、歩くことも難しそうだ。
弟は、駐在所の前を通るとき、のぞきこむようにしていく。
ある日、そのおまわりさんが、弟に敬礼をしてあげる。
男の子は、驚いたように通っていく。
毎日それを繰り返すうちに、男の子も、ニコっと笑って敬礼を返すようになった。
本当に可愛い、素直な笑顔だった。


やがて、おまわりさんの転勤のときが来る。
その頃には、弟もだいぶ病が進み、足は引きずるようにして歩いていた。
それでも、交番の前を通るときは、にこっとして敬礼をしていく。
あの子供たちは元気でいるだろうか、と祈るようにそのおまわりさんは上を見て話していた。