猩々

今日は、先輩の能の発表会。
少年の姿の妖精である猩々が踊る、という見せ場の多い能でした。
懐かしい方々にもお会いできましたし、滅多に見ない能を鑑賞させていただきありがたく思っています。
また、涼やかできりりとした猩々にお会いしたいものです。


渋谷で電車を待っていると、向こうから、少し叫ぶような、人を脅かすような声を上げながら来る人がいる。
私は、何故か振り向かず、本を読み続けながら、早く私の後ろを通り過ぎていくことを祈っていた。
ところが、その人は、私の後ろに並んだのだ。
そして、時折、驚かすような、脅かすような声を上げ続けている。
しかし、私はそれでも、なぜだか自分でも分からないが振り返ることをしなかった。


やがて電車が入ってくる。
私は降りる人を待ってから中に乗り込み、左側すぐの座席に座る。
声を上げていた人は、右側の、車両の端、普通は優先席になっているところに座ったようだった。
座ってからも、時折声を上げている。
次の駅で、小学生のお子さんも二人いる家族連れが乗ってきた。
小学生のお子さんは、声を聞いて、少し怖そうにその人を見るが、おそらく見かけはそれほど恐ろしいものではないのか、遠くに逃げていくこともなく、その場にいて、少し両親の方に身を寄せていた。
それから2つ目の駅で私は降りる。
結局、声を上げている人を見ることはなかった。


定かではないけれど、あの声を上げていた人は、何かの病気で突然身体が震え、脅すような声が出てしまうのではないかと思った。
私は、何故、あの人が私の後ろに並んだのか不思議だったけれど、それは、ことによると私がその人を、おそらくはその時ホームにいた人々の中で、唯一恐ろしげな目で見なかったからかもしれない。
私は、その人の日々の暮らしを思い、また目を慎むことを思いました。