優しい森

pakira_s2008-07-11


今日は青森の蔦温泉にいる。
蛍を見に、夜、宿から外に出る。
静かな蛍が私に向かって飛び、私の周りを回って、そしてまた飛んでいく。
夜の森は人間の領分ではないし、私もやはり恐ろしい気持ちを持っていた。
そして、それはそうあるべきだと思うのだが、今日は、蛍の舞う森は優しかった。
歓迎ということでもないが、私がいることを認め、暖かく見てくれている感じがした。
強い風が吹き、梢が大きく揺れるのも、語りかけているように思える。
宿に帰って下駄を脱いていると、宿の人が、
「蔦沼の方も蛍がいますよ。今日は雨だけど、晴れていると蔦沼が満天の星を湖面に映し、その上を蛍が舞っている様子はすばらしいと言う方がいます。」
と言ってくれる。
そのように言われると、これは行かないわけにはいかない。
昼間は長靴で行った道を浴衣に下駄履きで行く。
宿の人も、そのことに何も言わないのが何だかおかしい。
でも、実はそれで十分快適なのだ。
強い水の流れの側を歩いていて、ふと気づけば、周り中が光っている。
先ほどの小川の側で見た儚げな光ではなく、大きく、強く、そしてたくさんの数の蛍が光っている。そして、そこに「ククククッ」という木魂の声(モリアオガエルの声)がする。
雨で曇っているというけれど、賑やかな、明るい夜。
蔦沼に着いて湖面を見る。ちょうどその時、雨が強く降り出す。稲光もする。
これは、人間の時間の終わりだな、と思う。
蔦沼を後にして宿に向かう。しばらくすると、大きな蛾だろうか、目の前を横切って早く帰るように促す。
私も少し足を速め、蛍に送られながら宿に帰った。