新内 次郎吉さんげ

かつて私が千駄木に住んでいた頃、床屋さんに行って顔を剃ってもらっているとき、となりの人と店主の会話が聞くともなく耳に入ってきた。
おじいさんなのだが、これがまあ普通の会話をしているのだが、何だかやたらに「粋」なのだ。
こんな風に話したいものだ、と思ったのだけれど、後にそのおじいさんは新内の岡本文弥さんであることを知った。


私も、いつかあんな風に話してみたいものだ、と思って、CDを注文しました。
そのときも一点を除いて品切れで、一つだけ在庫のあったものを注文したのですが、ちょっと特殊な新内で、道灌山下の古本屋さんに売ってしまいました。売りに行ったら、とても喜んでくれたのも思い出です。
その古本屋さんは、文弥さんと隣り合わせた床屋さんから4軒くらい根津寄りにありました。お店の店主らしい男性の方が、新しくお店に働きに来たらしい女性の方に「値段をつけてみて」と言っていました。いくらで売れたか忘れてしまいましたが、その後谷中カフェとかでお会いしたときには、このお二人がご夫婦であったようにお見受けしました。


この頃は、いろいろ朗読したりして話す練習もしていますが、やっぱり文弥さんの話しぶりを聞いてみたくなって、またCDを検索してみました。Amazonでは相変わらず全部品切れでしたが、幸い、他のお店で中古の新内節特集を購入することができました。聴くのを楽しみにしています。




それにしても、文弥さんの話し方の何がそんなに素敵であったのだろうか、と思い返してみると、女性に優しかったこと(相手の気持ちを思って行動できること、とすれば、会話にはなかったけれど男性に対しても優しかったのかも知れませんが)と、粋であるために思いっきり良い意味の見栄っ張りであったことでしょうか。そうであるとすれば、生き方なのかもしれませんね。